秩父市国
 ベッドに倒れ込んだ慎二は、「秩父弁」の授業を思い出していた。




 教室は終始静まり返り、全員が必死に先生の話に耳を向けている。


 秩父弁は、日本に帰属していた時から秩父市を中心に使われていた方言である。


100年以上も前から、余り使われなくなった方言だが、独立を機に、改めて見直されるようになった。


いまでは公用語として、国語に代わり、学校で教えられている。




秩父弁担当教諭の秋山の指示を受け、生徒たちが一斉に教科書を開いた。


秩父神社に伝わる神話「繋ぎの竜」が本時の内容であった。


秩父神社本殿の外壁には、いくつかの彫刻が施されている。


繋ぎの竜とは、その彫刻のひとつである。


木製の竜の彫刻の上に、不似合いな鉄の鎖が被さっている姿からそう呼ばれている。


昔々、あまりに良くできたこの竜は、夜になると彫刻から抜け出し、人里で暴れまわったそうだ。


人々は困り果て、この竜が動けぬように、鎖で封印した。


自由を奪われた哀れな「繋ぎの竜」。


慎二は知らぬうちに、繋がれて自由を奪われたこの竜に今の自分を重ねていた。




ベッドから起き上がり、時計に目をやると、深夜2時を回っていた。


特に眠くはないが、することもない慎二は、そっと瞼をおろした。

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