Two Strange InterestS
05:見つめる先に、キミがいてほしい
 新谷氏の部屋はワンルームなので、扉をくぐれば目の前が居住スペース、玄関脇の右にバストイレ、左にキッチン。
 パソコンはそんな部屋の一番奥にある。私が目指すその場所までが、妙に、遠い。

「ど、どうしたのよいきなり。雨に打たれて風邪引いちゃった?」

 いきなり看病イベント突入!? 私、フラグ立てたつもりはないのに!?
 だとすれば、な、なんてベタな……まさか自分の身で体験するとは思っていなくて、選択肢を提示してくれない現実世界に混乱寸前。

 えぇっと……看病イベントの場合、大抵相手がベッドでうなされていて、私は手を握るとか、おかゆを食べさせるとか、薬を口移しで、っていうのは風邪がうつりそうだなぁ……って違う! そうじゃない! 妄想しすぎだよ沢城都!

 いつかの乙女ゲーを思い出し、バスタオルの下で赤面した。ギャルゲーに看病イベントは……あまりないような気がする。体を拭くという口実で服を脱がせるとか、風邪を引くのは主人公で、女の子が頑張って癒してくれるとか、そういう使い方だっけ。

 ……だっから違うでしょう、こんな時に何を考えているんだ私は。

 混乱しながらもおなじみの思考回路に、失笑どころではない。呆れて何も言えなくなってしまう。
 だけど……。

「ねぇ、新谷氏、何事? 私、訳が分からないよ」

 落ち着いたトーンで聞いてみる。だけど、彼は私をぎゅっと抱きしめたまま硬直。フリーズ。
 しょうがないので、私はある作戦を決行することにする。


「ねぇってば――薫っ!!」


 私が彼を名前で呼んだ瞬間。
 彼は慌てて私を解放した。
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