Two Strange InterestS
 頭から被っていたバスタオルを取り、ようやく取り戻した視界に彼を捉える。
 私の正面にいる新谷氏は……バツの悪そうな、でも、少しだけ泣きそうな面持ちで、一言「ゴメン」と呟いた。

「名前で呼ばれるの……やっぱり嫌なんだね」

 私がさっき、キャラを作って林檎ちゃんを追い返したときに彼を名前で呼んだ瞬間、明らかに戸惑っていたというか……辛そうに、見えたから。

 私は、彼が私のキャラを予想していなかったからだろうと思ったんだけど……でも、もし、理由がほかにあるのだとしたら。
 私は知らなかったとはいえ、彼に辛い過去を思い出させてしまったのかもしれない。
 案の定、彼がぽつりと呟いた。

「まだ……思い出すんだ、色々」

 色々――その一言に凝縮された過去が一体何なのか。付き合いの短い私には理解できないけど、

「その色々が何なのかは特に聞かないよ。だけどね、新谷氏……一言だけ、これだけは言わせてもらっていいかな?」

 根掘り葉掘り聞くつもりはない。私が聞くような話でもないと思うし、私が彼に優しい言葉をかけたとしても、それは、過去の傷をいたずらにえぐるだけになりそうだから。

 だけど、私はどうしても、彼に言っておかなければならないことがある。

 もしかしたら、今までにも言われてきたのかもしれないけど……彼自身が気がついていないこと、そして、出来るならば気がついたほうがいいこと。気がついてほしいこと。

「新谷氏、君は典型的な主人公属性なんだから……もうちょっと気をつけたほうがいいと思うよ」

「主人公属性……?」

「具体的に言えば、新谷薫はイケメンで誰に対しても優しく社交性もあって一人暮らしで……そして、自分が思ってる以上に周囲に鈍感ってこと」

 びしりと断言した私に、彼の表情が強張る。
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