放浪カモメ
コウというあだ名で呼ばれる冷静そうな男・康太以外は、すでに戦闘態勢に入ってしまったようで、指の骨や首の骨をバキバキと鳴らしている。

「まったく……僕は、獲物が捕食者にナブられる直前の、恐怖に染まった顔を見るのが好きなのに。」

康太は文字通り恐怖に顔を歪めていた鴨居の顔を実に愉快そうに見つめている。

「まぁ、ボコられてドンドン腫れ上がっていく顔を見るのも言うほど……嫌いじゃないんだけど、ね。」

康太は舌なめずりをすると、まるで自分の欲望を抑えるかのように、自らの腕をギリリと握り締めた。

「死なない程度に……殺れ。」

康太のその一言を合図に、五人の男が一斉に鴨居に殴りかかった。

顔に一発。

腹に一発。

背中からも一発。

「うっ…がっ!止め…」

鴨居の声も、殴打の音や男達の歓喜の声で消されてしまう。

地面に倒れこんだら、次は躊躇なく痛みに悶える鴨居を蹴り始めた。

『ドカッ』『ゴッ』と不快しか感じない鈍い音が延々と流れていく。





はぁ……

何でこんなことになったんだろ?

おかしいな。

味方を"作れなくても" 

敵だけは"作らない"。 

そんな生き方をしてきたはずなのに……



そういや前に誰か言ってたっけ……

『八方美人、振り返れば四面楚歌。』って――

ははは。 

シュール過ぎて笑えねぇよ……






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