共鳴り
レイコさんは、だからって動じたりはしない。


冷たいばかりの部屋で視線を滑らせ、体を起こす。



「そういえば、銀二って何で“銀二”なんだっけ?」


「…忘れたわ、そんなん。」


「じゃあ、本名は?」


「それも忘れた。」


あらあら、と彼女は言う。



「レイコさんの本名は?」


「そのままよ。」


「苗字は?」


「ないわよ、そんなの。」


「そんな人おらんやろ?」


「天皇と皇后とあたしだけは、苗字なんかないのよ。」


事もなさげに言いながら、彼女は窓の外を見つめた。



「レイコさんはこんな生活、寂しくならへんの?」


「変なことを言うわね。
あたしから見れば、何故みんな、誰かと暮らしたがるのか不思議で堪らないけど。」


「そんなん言うても、レイコさんかて誰かと暮らしたことくらいあるやろ?」


「ないわよ。」


「でも、ちっちゃい頃は親と暮らすのが普通やん。」


「親なんていないもの。」


突き離すでもなく、彼女はそれが当然のように言う。


俺はため息を混じらせながら、同じように窓の外へと視線を滑らせた。

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