国王陛下は純潔乙女を独占愛で染め上げたい

吹き抜ける風が、徐々に冷気を帯びて、ウェスタ神殿に冬の到来を告げる頃。

北の大地では、すでに本格的な冬が訪れていた。


まぶしいくらいの、一面の白、白、白。

清浄このうえない真白な雪のその上に、無数の人間が、眠るように転がっている。


老人、女、子供・・・。

そして、時には、若い男も。


なんの接点もない彼らには、ただ一つ、

やせ細った枯れ枝のような体を持ち、すでに呼吸をしていないという共通点があった。


餓死者の数は、とうに一桁を超え、三桁に迫る勢いだ。



・・酷い有様だな。



数多(あまた)の戦場を駆け抜け、さまざまな国を渡り歩いたその男にも、それは、目を覆いたくなる凄惨さであった。

皆、生きるのに必死なのだろう。

死者は、埋葬されることもなく、打ち捨てられている。


一瞬、後ろ髪を引かれたが、すぐに頭を切り替え、男は、まっすぐに南を目指した。

この惨状に、ほんのわずかな憐れみも投げず、心を残すこともなく。


そんなことをしても、個人の力で助けられるのは、せいぜい一人か二人。

下手をすれば、誰一人救うことはできないだろう。


それがわかっていたから、男は振り返ることはせず、ひたすら前進した。


現在の少数を見捨て、未来の多数を生かす。

割り切ったその考えは、支配者のそれだった。



・・神の怒りに触れた国か。



感傷を切り捨てるように、男は馬にむちをあてた。

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