メランコリック症候群
うまいさ。確かに、そこらの洋菓子店で買ってくるよりはずっとうまいさ。ほんのり卵の味がするしっとりしたスポンジ、甘さ控えめのきめ細やかな生クリーム、お高そうな艶やかさで光る甘い甘いイチゴ。

だけどだね、甘いものが苦手なわけではないけれど、ホールケーキの216°を胃袋に収めきれるほど甘党じゃないんだよ俺は。本当に、チョコレートケーキじゃなくて良かった。イチゴショートならまだましだ。ティラミスの時は、生クリームに溺れる夢まで見た。

「……せめて、母さんと父さんと俺で3等分にしてよ」

「あぁ、そっか。わざわざ5等分する必要なんて無かったね」

あはは、だなんて笑っているが姉さんは絶対に確信犯だ。5等分とか言いながら、明らかに俺の分が72°より大きいの気付いているんだからな。今日からあんたは鬼じゃなくて、鬼神に昇格だ。

「……もう無理。後で食べるよ」

「そう?じゃあ貸して、ラップしとくから」

ラップをする前に余った生クリームを更にケーキに塗り付けているのを、俺の目は見逃さなかった。どこまでSなんだよ、あんた。そこまでSなら、兄さんにも無理矢理食べさせたらいいのに。

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