メランコリック症候群
気付かれない内に退散しようと落ちた本を慌てて拾ったら、上履きが地面と擦れ鈍い音を立てた。背中を冷や汗が流れ落ちる。

「誰かいるの?」

案の定、その音に気が付いたカウンセラーが少し緊張気味の声を出す。俺は逃げることもできないまま固まって、足音が近付いてくるのを感じていた。

「わっ。び、びっくりした」

給水タンクの角を曲がって俺を見つけると、何とも情けない声を上げ彼女は飛び上がった。俺は妙な焦りを感じながら、まじまじと見下ろしてくる彼女の右手に握られた鍵を見つめる。

マズかっただろうか?

一応この人だって先生なんだろうから、問題になるかもしれない。それは、困る。

「ね、どうやって入ったの?いつも鍵掛かってるし、生徒は立ち入り禁止だから鍵貸してくれないはずだよね」


チャラチャラと鍵を振って座り込んだままの俺の顔を覗き込んでくる。

「……別に、ピッキングしただけですけど」

俺は前でカウンセラーがしているように、ポケットから安全ピンを取り出し揺らして見せた。

普通に考えて挑発。怒るだろうと思ってしてみたのに、カウンセラーは好奇を込めた瞳で見つめ返してきた。


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