メランコリック症候群
「大体、何の基準で執事役選んだんだ?」

女子手作りの、割と手触りの良い黒いリボンタイを鏡を見て定位置にずらしながら、俺はかねてからの疑問を腕組みをし睨みを利かす朝倉に問うた。

「そんなの、見た目に決まってるじゃない」

さも当然のように言い切った彼女に、俺は言い返す言葉も思いつかないまま、背を押され入り口に追いやられる。何だ、そのとんでもなくストレートな理屈は。

最後の最後まで執事役がやりたいと粘った宏も、幸か不幸かお菓子作りが上手だったため有無を言わさず料理班に引きずられていった。なおも食い下がった宏は数名の女子にメイド服のほうなら可という、男として屈辱的な言葉を浴びせられて見事に撃沈。ご臨終となった。

代わってやると言うと女子から猛反発をくらい、渋々俺はこの黒い燕尾服を着込んだのだ。それにしても、なんだこの気合いの入れ用は。カップやワゴンや、更にはどこで用意してきたのか謎な銀の3段トレーまで、兎に角備品に凝りまくっている。




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