澄んだ瞳に




お兄ちゃんは、また呟くように言った。


「………やれねぇ。」


よく聞こえなかった。


「……えっ?何て言ったの?」


「淳のように、いつもそばにいてやることが、出来ねぇって、言ったんだ!!」


と、急に怒り出したので、ビックリした。



「……どういうこと?」

私の問いに答えた、お兄ちゃん。


「来月から、出張に行く。予定は3ヶ月だ。その間、俺は、智香ちゃんの傍にいてやれねぇ。智香ちゃんに辛い思いをさせることになる。」


と、言って、また黙ってしまった。




お兄ちゃんは、前に付き合ってた彼女のことを、思い出して、言ったんだろうと思った。



お兄ちゃんの長期出張が、原因で別れたらしい。


お兄ちゃんが、彼女を家に呼んだことがあった。


その時に、お兄ちゃんの部屋から、言い争う声が聞こえてきたのだ。



……だから、出張なんか、行かないでって、言ってるの!!
悠哉に逢えない私が、どれだけ寂しい思いをしてるか知ってるの?


お兄ちゃんの声は低くて聞こえなかったが、最後に彼女が言った言葉は、はっきりと聞こえてきた。


じゃ、私たち、別れましょ



お兄ちゃんも、だいぶ堪えたのか、それから1年、彼女を作らなかった。




そして、今日、智香と付き合うことになった、お兄ちゃんが困惑していたのだった。





< 153 / 277 >

この作品をシェア

pagetop