月と太陽の事件簿6/夜の蝶は血とナイフの夢を見る
「僕にはしのぶさんを殺す動機がありませんからね」

東にしてみれば吉原しのぶは大事なお客。

殺すワケがないと言われれば確かにその通りなのである。

昨日、吉原しのぶと東久志が買い物や食事をした店の店員たちは2人の事を覚えていた。

いかにもホステスとホストというカップルだったので、印象に残っていたそうだ。

店員たちによると2人はまるではしゃぐように買い物や食事を楽しんでおり、とてもトラブルを抱えた男女には見えなかったという。

東が自分が犯人でないと言い切る理由はもうひとつある。

小林巡査が公園で吉原しのぶの遺体を発見したのは11時ちょうどを過ぎた頃。

一方で東がタクシーに乗ったのは11時5分。

ところが公園から東がタクシーを拾った地点までは直線距離で3キロ以上も離れていたのだ。

仮に小林巡査の見た後ろ姿の主が東だとしても、公園から全速力で走っても5分以内にタクシーに乗り込むのは無理なのである。

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