月と太陽の事件簿6/夜の蝶は血とナイフの夢を見る
「ああ、もしかしたら」

東が悪戯を思いついたような笑みを浮かべた。

「僕が走り去った後、しのぶさんが夢の中で見た男が現実に現われたのかもしれませんね」

は?

何を言っている?

「そんなホラー映画ありませんでしたか?」

「つまりその男が吉原さんを殺し、その場から走り去ったということですか?」

「その可能性はあると思いますよ」

「なぜです?」

あたしはしゃべりながら苛立ちと困惑を感じていた。

「だって走り去った男は僕と同じ金髪で白いジャケット姿だったんでしょう?」

東は再び金髪をつまんで言った。

「きっとしのぶさんは夢の中の男と僕を見間違えていたんだ」

あり得ない夢の話。

しかし目の前にいる男にはアリバイがある。

突飛だが矛盾がない、とらえどころのない事件。

あたし何も言えず、隣の達郎に目をやった。

達郎はまた、唇を尖らせていた。

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