月と太陽の事件簿6/夜の蝶は血とナイフの夢を見る
「いや、普段は飲み過ぎることはなかったです。接客態度は見事なもんでした」

ホメているのに怒った顔に見えるのは目力のせいだな、ウン。

「東さんがこの店に勤める以前のことはご存じですか」

「なんか高校出た後にしばらくブラブラしてから上京してきたみたいですけどね」

社長の言ったことは事実だった。

埼玉出身の東久志は地元高校を出た後、1年ほどアルバイト生活を送っていた。

本人いわく上京資金を貯めるためだったそうだ。

「この業界ですから昔のことを探ったりはしません」

社長は首を振った。

「でも若いわりにゃ女の扱いに慣れてるんで、学生の時から相当たらしこんできたんじゃないかと思ってます」

それはあたしも感じた。

東の証言は常識外れで、とても信じられるものではない。

しかし、捜査員の中にはウソをつくならもう少しマシなウソをつくだろうという者もいる。

結果あたしたち捜査陣は混乱している。

混乱して、達郎に協力を仰いでいる。
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