掌編集
 友達のいない寂しさを、壷の中を観察することで埋め合わせをする日々が続いた。

 ある日、地震が起こった。それは小さな地震で、少しの揺れで止まった。だが、その時壷の中では異変が起こっていたのだ。

 少女がそれに気付くのに、さほど時間を要しなかった。日課、というよりも、壷が割れていないか心配で、早速見に行ったのだ。

 地割れが起こっていた。土砂崩れも同時に発生したようだった。家畜が地割れに飲まれたようで、人々が四苦八苦していた。その様子を見て、少女は不思議に思った。まるで、つい先程こちらの世界で起こった地震が影響しているようではないか! 驚きを通り越して、確信が閃いた。

 ――こちらの世界からの干渉が、あちらの世界に影響を及ぼす。

 この法則は素敵なことの様に思えた。

 少女は早速、長い菜箸としゃもじを持ってきて、修復を試みることにした。地割れが起こった部分は周囲の土をかき集めて埋め、土砂崩れはしゃもじで丁寧に元の形に固めた。当然、埋まっていた人間達は菜箸で掘り起こし、地割れに落ちそうになっていた人間達は菜箸で助け上げた後に。壷の中の人々は、突然舞い込んだ奇跡に、神に感謝の祝詞を上げるのだった。

 それからというもの、少女は何かと壷に干渉した。先の出来事で気分を良くしたのだろう、少女は壷を故意に揺らしてみたかと思ったら中の惨劇の収拾を楽しんだ。

 めくるめく時は流れた。

 それまでも少女の干渉は続いた。ある時は壷の中に水を流し込んだり、ある時は電気スタンドを持ってきて壷の中を照らしたりした。中では、洪水、干魃と天変地異が続いた。人々は逃げ惑い、戸惑った。少女はその様を微笑んで眺めやっていた。そのすぐ後には修繕するのだ。

 それからの少女は、天変地異を起こしては、修繕を繰り返した。まるで人形で遊ぶ子供のように。その行為は他愛なかった。

 そして、彼女は神の境地になった。

 祖父はその様を見て、快くは思っていなかった。どんな人間でも、他人の命を好き勝手に弄ってよい者などいない。そして、彼女の将来にも不安の翳りがあった。だからこそ、彼女のために祖父は立ち上がるべき時だと思った。窘めるべきだと思った。

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