イジワルな恋人
「……奈緒はそんな子じゃないっ!
何も知らないくせに、勝手なことばかり言わないで!!」
そう叫ぶ声は少し震えていて、それでもしっかりとそう言った。
涙が溜まった目で。
妙な空気の中、俺は足を進めて女に近づく。
震えているそいつに気付いて、頭を軽く叩くように撫でた。
涙でいっぱいの目が俺を見上げて、涙を零した。
「……おまえ、笹田梓だろ? 俺、あいつんとこ行くけどどうする?」
そう聞くと、梓は黙って頷いて、俺の後ろを歩き出す。
俺はさっきのグループを少し睨んでから、グランドに背中を向けた。
「亮!」
グループのうちの一人が俺を呼び止める。
……多分、前遊んだ女。
「……あんな女信じるの?」
派手な化粧をした女に、俺は身体半分だけ振り向く。
「奈緒はそんな奴じゃねぇよ」
それだけ言って、また歩き出した。