イジワルな恋人
向かった先は一階の南端にある保健室。
保健室の中にいる二人を見るのが嫌で、……怖くて。
俺の足取りは重かった。
それでも着いた保健室を前に、中の光景を想像して、ドアに手を掛けることを躊躇する。
『そんな奴じゃねぇよ』
そんな言葉とは裏腹に、不安が襲う。
二股をかけるような女じゃない。
だけど……、俺との関係は、あくまでも『フリ』。
そう考えると、あいつが賀川と付き合っていたって何の問題もなくて。
そんな思いから、なかなか体が動かなかった。
……情けねぇな。
今まで感じた事のない、女々しい自分に腹が立つ。
躊躇している俺の横から、梓がこれ以上ないくらいの勢いでドアを開けた。
部屋から溢れ出てきた消毒液の匂いが鼻をつく。
中にいた賀川が、ドアの開く音に俺達に視線を向ける。
「……まだ気付かないんだ」
目に映ったのは……、保健室のベッドに寝ている奈緒と、そのベッドの横に座る賀川の姿。
俺の、見たくなかった光景。