イジワルな恋人


「奈緒……」


梓が小さく呟いて、奈緒に近付く。俺も少し遅れて後に続いた。

眠っている奈緒は、静かに落ち着いた呼吸をしているように見えたけど、顔色はまだ悪いままだった。


「賀川ちゃん、奈緒どうしたの?」


梓が賀川に聞く。


「貧血だと思うけど……ただ、最近バイト頑張りすぎてたからな……」


『なんで、そんな事知ってんだよ』

思わず言いそうになった言葉を呑み込む。

……口を開けば、ガキみたいなやきもちばかりが出てきそうで、俺は黙ったまま梓と賀川の話を聞いていた。


「賀川ちゃん、なんでそんな事知ってるの……?」


梓が俺の心を読んだようなタイミングで聞く。

賀川は、少し視線を伏せながら困ったように笑みを浮かべた。


「なんて説明すればいいかな……」


窓から入ってくる風が、保健室の白いカーテンを揺らす。

「奈緒には、兄貴がいたんだけど……もともと俺は奈緒の兄貴の友達なんだ」

「あ……」


梓が小さく声を漏らす。

賀川はそんな梓を見て頷いてから、俺に視線を移した。


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