イジワルな恋人


……―――夢を見た。


“奈緒のせいなんかじゃないんだよ。

奈緒は奈緒の幸せのために生きなきゃダメ”


……自分に都合のいい夢。


お父さんもお母さんも健兄も……あたしを憎んでる?


その答えが、あたしには聞こえない―――……。



昨日、バイトを休んで、亮の車で家に送ってもらってからご飯も食べずにひたすら寝ていた。そのせいで、目が覚めたのは……、5時20分。


12時間くらい寝てたんだ……。

おばあちゃん、まだ寝てるかな。


まだ重い身体をゆっくり起き上がらせて、リビングに下りる。

部屋に入ると、お線香の匂いに気付いた。


「奈緒ちゃん、もう起きたの?」


キッチンから聞こえたおばあちゃんの声に、少し驚いて振り返る。


「うん……っていうかおばあちゃんも早いね。びっくりした」


笑顔を浮かべながらエプロンをつけようとすると、おばあちゃんに止められた。


「あ、奈緒ちゃん! 今日はだめ。

おばあちゃんが作るから」


そう言って、あたしからエプロンを取り上げる。


「……でも二人分だし」


少し気まずく思いながら言うと、おばあちゃんは優しく微笑む。


「ちゃんとわかってるわよ。こないだ迎えにきた子でしょ?」

「……うん。まぁ」


家族との間に、男の子の話題は少し恥ずかしいような気持ちになって……あたしはソファーに座って、おばあちゃんに背中を向けた。



< 143 / 459 >

この作品をシェア

pagetop