イジワルな恋人


「……ちゃん、奈緒ちゃん」


おばあちゃんの呼ぶ声に、我に返る。

驚いて怯えた顔で振り返ったあたしに、おばあちゃんが驚いた表情を浮かべた。


「あ……ごめん、考え事……」


すぐに笑顔を作ると、おばあちゃんは少し悲しそうに微笑む。


「……時間だよ」


それだけ言うとあたしにお弁当を差し出した。


「ありがと。行ってきます」


笑顔で言うってから玄関を出た。


そして、立ち止まって閉めたドアを振り返った。


……おばあちゃん、きっと変に思ったよね。

おばあちゃんの視線に気付いてたのに、振り返る事もできなかった……


立ち止まった足を無理矢理進める。


……ごめんね。今止まったら、歩けなくなっちゃうから。

今話したら……多分、泣いちゃうから。


少しうつむきながら、待っていた亮の車に乗り込んだ。


ごめん……。

おばあちゃん、ごめんね……。



お父さん、お母さん、健兄……。


あたしのせいで……ごめん。





ごめんね―――……。


< 148 / 459 >

この作品をシェア

pagetop