イジワルな恋人


男が出て行った事を確認した後……、亮の怒りの矛先があたしに向けられる。


「なんですぐ呼ばねぇんだよっ!」


珍しい亮の大声に、身体がすくむ。


「……だって、そんな時間なかっ」

「……他の男に触られて嫌なのは、おまえだけじゃねぇんだよ」

「え……」

「それくらい、分かれよ」


言い訳を探していたあたしは、亮の言葉に口を結ぶ。


その一部始終を見ていた香奈ちゃんが、驚いた表情をあたし達に向けた。


「先輩……桜木さんと付き合ってるんですか?」


すっかり香奈ちゃんの存在を忘れていた亮とあたしは、香奈ちゃんの言葉に勢いよく振り向いた。

返事に困っていると、亮が小さなため息をつく。


「……今見た通りだよ。

俺はバレてもいいんだけど、こいつはバイト続けたいみたいだから黙っててもらえる?」


あまりにもはっきりと言い切った亮の横顔が、こんな時なのに、すごくかっこよく見えて……。


少しの間、その横顔を見つめていた。

そして、目を移すと、香奈ちゃんの笑顔が視界に映る。


「もちろんですよ! あたし、これからも先輩と一緒バイトしたいですもん。

絶対に秘密にします」

「香奈ちゃん……ありがとぅ」


安心して笑顔を浮かべると、それを見た亮があたしの頭をポンポンと撫でてから持ち場に戻る。


< 290 / 459 >

この作品をシェア

pagetop