イジワルな恋人


「……してないよ」

「あれ? なんだてっきりしたんだと思ってた」

「あたしも。じらすねぇ」


梓の言葉に愛が悪乗りするから、また立ち上がりそうになって……。


「できたよ」


それを止める梓の言葉に、しぶしぶ鏡を手にとった。


「奈緒可愛いー! 似合うじゃん! パーマかければ?」

「桜木先輩の反応が楽しみだよね」


鏡の中の見慣れない自分。

褒めてくれる2人に、決して嫌な気分にはならなくて、照れ笑いを零した。



放課後、あたしはなかなか下駄箱の前から動けずにいた。

自分ですら見慣れていない髪型を亮に見せるのはなんだか恥ずかしくて……。

一歩が踏み出せない。


……どうしよう。

恥ずかしいけど……でも、いつまでもここにいるわけにも……。



うつむいて考え込んでる横を、誰かが校舎の中へ向かって走り抜けた。


微かに香る香水に、背の高いシルエット……。



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