イジワルな恋人
「付き合ってる相手が俺なら、よっぽどの奴じゃなきゃ諦めるんじゃね?」
……確かに。
自信たっぷりに言う桜木先輩の態度は気に入らないけど、かなり説得力のある言葉だった。
彼氏が桜木先輩なら、絶対に誰も言い寄ってこられない。
誰も言い寄ってこなければ、女子からの呼び出しもなくなるかも知れない。
「いい話だと思うんだけど?」
そう横目を引っ掛けながら笑う桜木先輩に、少し考えた後口を開く。
「……フリでいいんだよね?」
あたしの言葉に、桜木先輩はニヤリと笑う。
「もちろん」
「フリでいいなら……」
いまいち歯切れ悪く言うと、桜木先輩はニっと笑って座っていた机から下りる。
そしてあたしの前まで来ると、手を差し出した。
「交渉成立だな」
差し出された手。少し躊躇した後、桜木先輩の手にそっと手を合わせた。
桜木先輩の手があたしの手を包むように握った。
……大きな手。
意識して男の人の手に触るのなんて、あれ以来初めてだ……。