イジワルな恋人
「……っ離れて!」
「は? おまえが勝手にくっついてきたんだろうが!
おまえが離れ……」
そう怒鳴ったものの……顔を赤くして身動きの取れなくなっている奈緒に気付いて、言葉を止めた。
……ったく、しょうがねぇな。
軽くため息をついてから体勢を変えようと身体を引く。
奈緒から離れようとした時、高いキーの急ブレーキ音が響いた。
「……―――ひゃ、」
背もたれを前に正座するような格好をしていた奈緒が、突然のブレーキにバランスを崩す。
「……っ!!」
後ろ向きに床に落ちそうになった奈緒の腕を掴んで、自分の胸に抱き寄せた。
「あぶねー……、北村、どうした?」
少し声を荒立たせながら北村に聞くと、北村が珍しく慌てた声で答える。
「申し訳ありませんっ。猫が飛び出してきたものですから……。お怪我はありませんでしたか?」
「ああ。……奈緒、大丈夫か?」
北村に返事をしながら奈緒に視線を移す。と、俺の腕ん中で完全にフリーズしている奈緒に気付いた。