イジワルな恋人


「あの事件が起こるまでは……、あたしだって普通に暮らしてたのに。

加害者の親戚だからってだけで……なんでこんなんになっちゃったのかな」


佐伯さんの涙が、ポロポロと溢れて落ちていく。

その涙に、ずっと鈍い痛みを感じていた胸が、ジワリと痛み出す。


「佐伯さん……誰かに何か言われた? 

でもみんながみんなそうじゃないよ……。あたしだって色々言われたけど……、」

「何言われたって、アンタは結局は被害者でしょっ?!」


あたしの言葉を遮った佐伯さんの声に、身体がすくむ。


「なんで……、アンタばっかり……っ! 

あたしだってつらい目にあってんのに……っ。

亮くんだって、智也だって、みんなアンタばっかり大切にして……っ」

「智也って……?」


戸惑いながらも聞いたあたしの視線の先で……、

佐伯さんが鞄から冷たく光るものを取り出した。


……カッター?!


握られたカッターを目の前に、動揺から顔が強張る。


「ダメだよっ、佐伯さん! ……そんな事したって何にもなんないよ?!」


慌てるあたしに、佐伯さんは少し呆れたように笑みをこぼした。


「……本当にお人好しだよね。バイトん時だってサボりまくってるあたしの代わりに、1人で頑張ってさ。

……そういう所も気に入らなかったけど」


言っている意味が分からなくて、眉をしかめる。


そして次の瞬間……、

焦りの中に小さな恐怖が混ざった。



……佐伯さんのカッターが、あたしに向けられていた。



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