イジワルな恋人


「え……、あたし……?」


向けられたカッターに、目が釘付けになる。


「……アンタがいる限り、あたしは生きにくいの。

アンタがいる限り、一生『加害者』でいなきゃいけないの……。

だから……、消えて……」


震える手でカッターを握る佐伯さんを、戸惑いながら見つめる。

……恐怖はある。

だけど、それ以上に佐伯さんの言葉が、あたしを悲しく締め付けていた。


……違うよ。

違うよ、佐伯さん……。

あたしがいなくなったって一緒だよ……。


佐伯さんが変わらなきゃ、一生あの事件から解放されない。

自由になれない。

……幸せなんかなれないよ。


あたしは、きゅっと唇を結んでから佐伯さんを見つめた。


「……佐伯さんがそれで本当に楽になれるなら……、いいよ」


佐伯さんを真っ直ぐに見つめる。でも声は震えてた。


「……でもカッターなんかじゃ難しいよ」


佐伯さんは呆然として……少し笑う。



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