イジワルな恋人


「途中、何度も桜木先輩が飛び出しそうになって大変だったんだからー」


梓の言葉に、その時の状況が目に浮かんで……あたしは顔を緩ませた。


「亮、ごめんね……? これからは気をつけるから……」


振り向いた亮の手には、まだ佐伯さんのカッターがきつく握られていた。

骨が白く浮き出るほどに強く。


「……おまえ、さっきみたいに、ばぁちゃんが死んだら好きにしていい、なんて二度と言うな。

俺残してく気かよ」


真剣な亮の顔に……、あたしは少しだけ微笑んでゆっくりと深くうなづいた。

ほっとしたからなのか、涙が浮かびそうだった。


「まぁ、んな事言っても、おまえはどうせまた無茶するんだろうから、俺がずっと見張っててやるよ」

「え……」

「おまえは危ない事にばっか巻き込まれるから。

ずっと目の届く場所においとかなきゃ気が気じゃねぇよ。

身体がもたねぇって言ったろ」


びっくりしているあたしの視線の先で……、

亮が口の端を吊り上げて笑みをこぼす。


亮の言葉に、咄嗟に頷こうとして……後ろから飛んできた威勢のいい声に止められた。


「亮っ! それってプロポーズ?!」

「奈緒っ! 玉の輿じゃん!」


騒がしい声にあたしは笑って……亮はため息をついて歩き出す。







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