イジワルな恋人
【亮SIDE】
「亮?」
俺がなんで背中を向けたのかも知らないで、奈緒はまた俺の名前を口にする。
奈緒が初めて俺を名前で呼んだことに気づいて、そのせいでまともに奈緒を見られなくなったのに。
……名前なんか、他の女だってみんな呼んでんだから別に特別な事でもなんでもねぇのに……。
なんなんだよ、昨日から……。ホントに調子が狂う。
「……亮?」
再び奈緒の口から出た自分の名前に……、俺はまだ振り向けないまま、口許を手で覆った。
「……まだ怒ってる?」
俺の態度を誤解した奈緒が心配そう聞く。
俺は、動揺を悟られないように、奈緒に、持っていたビニール袋を差し出した。
「……え、取れたの?! こんなにいっぱい?」
「だから言ったろ? おまえが見てなきゃ取れるって」
少し得意げに言うと、奈緒は袋の中を見たまま嬉しそうな笑顔を浮かべる。
「全部くれるの……?」
「俺がそんなのいるわけねぇだろ」
「だから、林檎うさぎは……あ、そうだ」
ムッとした表情で話し出した奈緒は、途中で会話を切り上げて、袋の中をごそごそと探り出す。