その手に触れたくて

1階の職員室がある廊下を数歩、歩いた時だった。

あたしの目の前から徐々に距離を詰めて歩いてくる人物――…



隼人の元彼女。

緩く巻いた茶色の髪に凛としたキツめの顔…


少し離れてる距離だけど、あたしにだって分かるその先輩の表情。

眉間にシワを寄せながら、こっちに向かって来る。


先輩の視線はあたしを捕らえてる…まるで獲物を見るその目があたしの全身を震わせた。


先輩は徐々に近づき、あたしの前に立ち止まる。


やっぱし、あたしなんだ…


怖い。目の前にいる先輩が怖い。

その先輩の視線から恐る恐る目を逸らすあたしに、


「来て…」


先輩は低い声でそう言い放ち、あたしの横を通り過ぎた。

その先輩の一言で一気にあたしの身体寒気が走る。


嫌な予感がする。

そう言われて何となく今から先輩が言ってくる事に想像がつく。

もう、隼人しか居ない。


鉄の様に感じる思い足を先輩の方へと向けると、先輩はスタスタとあたしに背を向けて進んで行く。


その後ろ姿が恐ろしく感じる。


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