その手に触れたくて
「…もう、いいですか?」
そう言った瞬間、先輩はあたしの胸倉を掴み背後にある壁にあたしを押しつけた。
背中が痛い。
ひんやりと伝わってくる冷たさがシャツを通して肌に染みる。
なんであたしがこんな目に…
「目障りなんだよ!!彼女気取りしやがって…隼人にまとわり付くんじゃねぇよ!!」
先輩の張り上げた声が辺りを響かす。
先輩に掴まれている所為で首元が痛い。
あたしは唇を噛み締めたまま先輩を睨み上げた。
「隼人とは別れません」
「別れるとかそう言う問題じゃねぇんだよ!!ウザイんだよ!!人の男とりやがって目障りなんだよ!!…消えろ…」
「…いっ…ッ」
そう最後に呟かれた瞬間、あたしの左手首に激震が走り思わず顔を顰めた。
ジンジンと左手に痛みが走りだすとともに手の感覚がなくなりそうになる。
顔を顰めたまま視線を落とすと先輩が持っている短くなったタバコがあたしの手に押しあてられていた。
…熱い。熱い。…痛い…
馬鹿みたいな根性なんだろうか。手を除ければいいものの、あたしは痛みを堪えながら唇を噛み締めた。
先輩に負けたくないって言う強がりなんだろうか。
もう分かんない。今の自分に考えるほどの能力なんて何もない…