その手に触れたくて

「…何してんの?」

「……」


不意に聞こえてきた女の声に先輩はその方向に視線を向け、それと同時にあたしの手首からそっと先輩はタバコを離し、掴んでいた胸ぐらの力も弱めた。


「ちょ、何してんですか?!」

「……」

そう驚いた声を張り上げながら足音を響かせ、その人はあたしの手首を掴んだ。


その拍子にあたしの身体がビクッとし、ヒリヒリとしていく手首に眉を寄せる。

未だにあたしの胸ぐらを掴んでいる先輩から視線をゆっくり左隣に向けると、そこには思いもしない人物が立っていた。



…相沢さん?


そこに立っていたのは相沢さんだった。

以前、剛くんって人が学校に来て口論をしていた、あの相沢さん。


どうして相沢さんが?


「何してるんですか?!!」


相沢さんは眉を潜めたまま先輩に問い掛ける。

だけど先輩は口を開く事なく小さく舌打ちをし、あたしの胸ぐらを掴んでいた手を離しあたし達に背後を向けた。


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