その手に触れたくて

Γなんか、いつも悪いね」

Γ何が?」

Γいつも隼人に買って貰ってる」

Γまぁ、たいしたもんはやってねぇけどな」


そう言った隼人は呆れた様にフッと笑って、あたしにレモンティーを差し出した。


Γありがと」


受け取ったレモンティーの蓋を開け、一口飲んでコンビニを出ると、どこからともなく聞こえてきた不愉快な笑い声に前を歩いていた隼人は一旦、足を止め、小さく舌打ちをした。


何?どうしたの?…そう問い掛けようとした途端、隼人はあたしの腕を強く握りしめ、自転車とは全く違う方向に急いで足を進ませた。


…が、


Γおい、橘(たちばな)!!逃げんのかよ!!」


どこからともなく聞こえてきた声に、隼人はもう一度舌打ちをし早歩きで足を進めて行く。


橘…。確かに誰か知らない男はそう言った。あまり感心などしていなかったけど、橘って言うのは隼人の苗字。


Γおい、待てよ!!」


背後から聞こえてくる荒くなった男の声と数人の笑い声。

それを無視するかのように隼人は足を進め、あたしはそれに着いて行くのが必死だった。


早足で行く隼人に必死で着いて行くあたしの足がもつれそうになる。


Γちょ、待ってよ隼人!」


そんなあたしの声すら無視して行く隼人の顔は険しかった。


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