その手に触れたくて

あたしが隼人の姿を見間違える訳がなかった。倒れている隼人は何回も咳払いをし、ツバを吐き捨てていた。


どうしよう…。
どうしよう…。
どうしたらいいの?


混乱する中、隼人が言った言葉がふと浮かんだ。


“寄り道せずに帰れ”
“何があってもここへは来るな”


そう必死で伝えてきた隼人の顔が目に浮かんだ。あたしが行っても何も役には絶たない。

だけど、だけど隼人を助けたい。喧嘩は…喧嘩はこの世で一番嫌いだけど、なんで…なんで隼人やりかえさないの?


そう思ったのも束の間だった。一瞬だった…


Γやるならやれよ」


不意に聞こえた誰だか分かんない声に視線を向けると隼人はツバを吐き捨てながら相手の男の胸ぐらを掴んでた。


Γふざけやがって…」


隼人がそう小さく呟くと男達は馬鹿馬鹿しく笑い捨てた。


Γふざけてんのは、お前の方じゃねぇかよ。病院送りまでしやがって…俺の時間返せよな!!」


男が力強く言い捨てた後、

Γゲボッ…」


とお腹を蹴られた隼人の声があたしの耳に伝わった。


もう止めてよ…
ねぇ、お願い。止めてよ…ねぇってば!!


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