その手に触れたくて
蹴られた隼人は前屈みになって、また何度もツバを吐き捨ててた。
Γ別にいいけどよ、殴っても。けど、あの女、追い掛けるぞ…今からでも遅くねぇし」
辛そうな隼人の姿をただただ見てるあたしに、男の言った寒気が走るような言葉にまたあたしの頬に涙が走ってた。
あたしの所為?
あたしを庇ってんの?
あたしが居るから隼人は殴られてんの?
男達の不愉快な笑い声に怖くなってく。身体に力が入んない…
抵抗しない隼人はただただ男達に殴られて、また地面に蹲(うずくま)る。
やだ…死んじゃう。
隼人が死んじゃう。
止めてよ、隼人を痛め付けるの止めてよ。
死んじゃうよ…
そう思ったあたしは、その場から離れスカートの中から携帯を取り出した。
携帯をパカッと開けて、その画面の明るさに自分の顔が明るくなる。
画面に映し出される21:46と言う文字に思わず一息ついた。
もう…こんな時間。誰かに電話を掛けようと思って取り出した携帯も全然役にたたない。
掛けようと思ってもその相手が見つからない。直司だって、颯ちゃんだって、敦っちゃんだって、皆の番号すら知らない。
考えて考えてした結果、夏美が浮かんで電話をしたけれど、誰かと話中だった。
混乱して混乱して、どうしたらいいのか分かんなくて手足が震えてきた。
近くから未だに聞こえる怒鳴り声を防ぐ様にして耳に手を押しあてた時、
Γパ、パァーン…」
と言う車のクラクションであたしの視線がそっちに向かった。