その手に触れたくて

その日からお兄ちゃんは狂ったように荒れていて、学校にも行ってなくて家にも帰ってこなかった。

それを見ていたお父さんはお兄ちゃんを見るとすぐに怒鳴ってた。だから、そんなお兄ちゃんがいるからこそ、あたしは門限までつけられていた。

でも、その1年後、お父さんは亡くなった。


ママとあたしは視界が見えないほど涙を流してたのに、お兄ちゃんは一滴も涙を流す事はなかった。

けどお父さんの死を少しずつ受け止めようとしたのか、お兄ちゃんはその日から少しずつ変わり始めたんだけど…


だからだとあたしは思う。お兄ちゃんがあたしに対して色々と煩いのは…


お兄ちゃんは、あたしと美優さんを重ね合わせてる。そしてお兄ちゃんは昔の自分と隼人を重ね合わせてる――…


Γ俺は認めねぇぞ。アイツと付き合うのは…」


記憶に浸っていると不意に聞こえたお兄ちゃんの声に現実に引き戻された。

お兄ちゃんはいつ取ってきたのかも分からない缶ビールを口に含みながらタバコの灰を灰皿に落としていく。


何本目か分からないタバコは灰皿から溢れてて、お兄ちゃんが相当苛立ってる事が分かった。


でも…あたしは隼人と別れない。別れたくない――…


< 302 / 610 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop