その手に触れたくて

Γ美月ちゃん、ベッド使っていいよ」


凛さんの声にあたしは首を振る。


Γ大丈夫です。眠くないので…」

Γ身体、痛いよ?」

Γいいです」


沈んだ声で呟くあたしに凛はタオルケットを何枚か重ねてあたしの身体に掛けてくれた。


Γすみません…」


凛さんに凄く申し訳ないと思った。

時間なんて分かんなかった。刻々と過ぎていく時間なんて全く分かんないくらいだった。


Γ美月ちゃん、あのさ、」


不意に聞こえた凛さんの声に反応したあたしは一瞬だけピクリと身体が動く。


Γ響の事、悪く思わないでね」

Γ……、」


続けられた言葉がなんとも言えないほど、ありえない言葉だった。


Γってか、響の肩を持つって事じゃないの。あたしには響の言ってる事もよく分かるから」

Γ……」

Γ響、美月ちゃんの事心配なんだよ。だからと言って隼人くんの事を悪く思ってるって事じゃないよ」

Γ……」

Γ響、意地張ってああやって言ってるけど、きっと内心では美月ちゃんと隼人くんの事分かってると思うから」


何がですか?って言いたかった。

お兄ちゃんが、何をどう隼人の事を分かってんの?って言いたかった。

あんなお兄ちゃんの何処を認めて分かればいいのか分からなかった。


それからはきっと…少しだけ寝てたんだと思った。目を覚ますと凛さんの姿は既になくて、窓の外が少しづつ明るくなっていた。


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