その手に触れたくて

「よく分かんねぇけどアイツ…美月ちゃんのお兄さんとなんか約束してた?」

「……」

「それ以上アイツ何も言わなかったから俺には分かんねぇんだけど…」


どんよりとした空気を掻き消す様に割り込んできたのは、携帯の着信音だった。

あたしじゃない、目の前の直司の携帯。


「ごめん、」


申し訳なさそうにそう言った直司はポケットから携帯を取り出す。


「うん、いいよ。もう帰るから」

「ごめんね。でも、アイツ美月ちゃんの事で悩んでたみたいだから」


その言葉だけ置いて行った直司は携帯を耳に当て、会話をしだす。その場から離れようとしたあたしに、直司は“バイバイ”って声を出さずに口を動かした。


「…バイバイ」


小さくそう言ったあたしは教室を出て、さっき言われた言葉を思い出す。



“約束”

直司がそう言った、お兄ちゃんと隼人の約束なんて、そんなの分かんない。

あたしが知らない間に、何か約束でもしたのだろうか。


分かんない。ほんとに何も分かんない。それと、何の関係があるのかもさっぱり分かんなかった。

そう思いながらふと、足を止めたのはやはりいつもの場所。


隼人が来てくれるかなんて正直分かんないけど、冬の冷たい気温に本当にやられそうだった。


本当に、本当に、もう限界かもしれない…







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