その手に触れたくて

「行ってきます」


ゆっくり、くつろいでいると時間はすでに8時を過ぎていて、あたしは慌てて家を出た。

玄関を出て、辺りを見渡した限り、まだ夏美の姿は見えなくて、あたしは鞄に入っている携帯を取り出し、パカッと開ける。


今、どの辺りか聞こうと思い、電話帳を開け夏美の名前を呼び出した時、


「悪りぃ。遅くなった」


不意に聞こえた声に、あたしは目を向けた。


「え…」


思わず声を漏らして目を向ける先は少し息を切らした隼人がいて、その乗っている自転車はどう見てもあたしの自転車だった。


な…んで?


呆然として見つめるあたしに、

「ボケっとしすぎ」

そう言ってくる隼人はフッと鼻で笑う。


それにハッとしたあたしは、ゆっくりと隼人へと近づく。

何で夏美じゃないの?
何で隼人なの?


不思議に思ったあたしは
近づいた隼人に少し首を傾げながら目を向けた。


「夏美は?」


隼人は暑いのか胸元でシャツを掴んでバタバタとバタつかせながら、あたしを見る。


「何?アイツから聞いてねぇの?」

「え?」

「とりあえず乗れよ」


そう言って、隼人はあたしから後ろに目を向ける。


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