メイドのお仕事
◆梨香◇


「…やけに騒がしいわねぇ」


ショッピングぐらいゆっくりさせてよ。



近くにいたおじさんたちがペラペラ喋ってる。

私は聞き耳を立てその話を日本語に直す。



『男の日本人が車に轢かれたぞ!!』

『日本人?どんな?』

『さぁ?でも金持ち坊ちゃんらしい、大変だな!』


私はその瞬間、ドッと胸騒ぎがした。


『そこの大通りだ、行ってみようぜ!』

『あぁ、そうだな!』



そのおじさんたちについて行く。

人違い、よね?


『見ろ!救急車だ!』

『うわ、すげぇ……』


大通りには人がうじゃうじゃいた。



「…………っっ利琥!!!!」


嘘であってほしかった。


目の前にいたのは紛れも無く私の弟。

血だらけで呼びかけてもこっちを見ない。



『あなたは?』

『姉です!』


私は救急車に一緒に乗り込む。


「利琥、利琥!」

『落ち着いて下さい』


利琥の手を握り、必死で名を呼ぶ。



―――利琥が、危ない。

放心状態のまま、祐樹に電話する。

あの子たちには教えといた方が良い。




私はただ、祈る事しか出来ない。

死ぬんじゃないわよ、利琥。


< 220 / 280 >

この作品をシェア

pagetop