お大事にしてください
痛み止め4
言葉を出す事の出来ないほどの痛み。その痛みを堪えながら、幸は田んぼの中、一人自転車を押した。とても乗れるような状態ではない。
「痛くない。痛くない。」
思い込もうと、何度も呪文のように繰り返す。しかし、生半可な呪文など腹痛に効く訳もなく、額には脂汗がじっとりと滲んでいた。
「だ、誰か助けて。」
助けを請うても、周りには家一つない、はずだった。
明るい光が、幸をやさしく包んでくれた。その光は看板だった。薬と大きく書かれている。
「あれ、こんな所に薬屋なんてあったっけ?」
子供の頃から何度も、この道は通っている。その何年間もの記憶をどれだけ辿っても、この薬屋が出てくる事はなかった。記憶を辿っている間も、痛みは幸を襲い続ける。もう限界だった。細かい事を気にしている場合ではない。その薬屋に駆け込んだ。
「すいません。」
消毒液の臭いだろうか、鼻を刺激された。しかし、この臭い以外に、誰も幸を出迎えてはくれなかった。
「すいません。」
もう一度、誰かを呼んでみる。すると、奥の方から老人が出てきた。幸の身長はちょうど百六十センチくらいだ。その幸よりも老人はかなり小さい。百四十センチに届くかどうかと言った感じだ。小さく、かすれた声で返事をした。
「あの、お腹が、お腹が痛いんです。痛み止めってありますか?」
「痛み止めですか?飲み薬と塗り薬とありますが、どちらがいいでしょうか?」
老人は、ゆっくりと何かを確認している。
その様子を、幸はまったく気がつかなかった。ただ、ただ、この痛みを止めたい、それだけだったからだ。
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