お大事にしてください
「痛ったぁ。」
今日もぶつけた。足の小指だ。
太い柱に、箪笥に、幸は一日何回ぶつけるかわからない。特に夏場はひどかった。暑さで意識が朦朧としているところに、暑いから靴下を履いていない。靴下を履いていれば、少しは痛みが和らぐ事もあるが、裸足だと痛みはダイレクトだ。手加減なしで、幸の小指に襲いかかる。
「なんで、この家はこんなに柱だらけなのよ。箪笥も、まるで私の小指を待ちかまえるように置いてあるし・・・。本当、最悪。尚美の家なんか、柱とか箪笥とかないから、ぶつける事なんかないのに。」
幸の独り言を、祖母は聞いていた。
「だったら、尚美って子の家に住めばええ。ご先祖様の家が気に入らないなら、そうすればええ。ばばあは、何も構わん。」
「おばあちゃん、聞いてたの?」
「聞いてたのも、へったくれもあるもんか。あんなに、でけえ声出してたら、嫌でも聞こえちまうわ。」
壁に耳あり障子に目ありと言う諺が、これほど似合う家も珍しい。
そんな、くだらない事が浮かんできた。そして、すぐに嫌になった。くだらない事を考えた自分に、そしていつまでも古くさいままの祖母とこの家に。
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