お大事にしてください
目覚める4
六郎は用心深かった。ただ、用心深いと言っても、自分の体に対してだけだ。
例えば、少し熱っぽいなと感じたら、すぐに風邪薬を飲むし、調子が悪いなと感じたら、すぐに医者にかかる。だから、馴染みの薬屋や医者の数も、それなりに多かった。
気がつけば、その馴染みの中のひとつの前に来ていた。薬と言う文字が、六郎にとって救いの神のように見えた。
「小田さん。」
店主が声をかけてきた。
「やぁ、どうも?」
「今日はどうしたんですか?心なしか顔色悪いみたいですけど・・・。」
もう数日、ちゃんと寝ていないのだから当然だ。
「実は・・・。」
喉元まで出掛かっていた言葉を飲み込んだ。馴染みだからこそ言えない事がある。今の六郎が、まさにそれだった。
「あ、いや、風邪薬あるかな?」
「いつものやつでいいですよね?」
薬を入れた紙袋を受け取り、六郎は店を出た。
天を仰ぐ。目の前にある青い空と手に持った紙袋の鮮やかな黄色が、六郎の目にうらめしく映った。
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