お大事にしてください
恰幅のいい男1
嫌な世の中になったものだ。ラジオでも、テレビでも、そしてネットでも、そこかしこでメタボ、メタボ、メタボ・・・。この言葉を聞かない日はない。そして、文太は、この言葉が大嫌いだ。なぜなら、彼が典型的なメタボ体型だからだ。身長百五十六センチ、体重百三キロ、体脂肪はこの間計った時には、六十パーセントを超えていた。
それでもこの体格のおかげなのか、貫禄のある男として部下からの信頼は厚かった。
「香月さん、ちょっといいですか?」
文太の会社では社長でも、さん付けで呼び合う。そう、文太は社長だ。社員数三十名弱だが、立派に不動産業を営んでいる。
「河本か、どうした?」
相談しに来たのは、営業部の河本だ。役職は一応、課長と言う事になっている。年齢は文太と同じ四十だ。しかし、年齢の割には頼りない線の細い男だ。
「ちょっとトラブってしまいまして、一緒に来ていただけないでしょうか?」
「またか・・・。この間も一緒に行ったよな。」
「あ、あの時はありがとうございました。それで・・・今回も同じ感じのトラブルなんですよ。そうすると僕だとどうしようもなくて・・・。やっぱり、香月さんみたいに貫禄がある人じゃないと・・・。」
貫禄。
文太はこの言葉が大好きだ。そう言われた途端、笑みを浮かべ鼻息が荒くなった。
「そっか、そっか。貫禄があるか。わかった。一緒に行ってやる。」
「すいません。お願いします。」
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