【短編集】時空郵便
八通目:軌跡と奇跡

「梅ばあちゃんバイバーイ!」

「また来るからねー!!」

いつ頃からだろうねぇ、朝起きる時に孫達の小さい頃の思い出が蘇るようになったのは。

「あいたたた、どれ……よっこいしょ」

お天道様とともに起きるのは昔からのくせでね、小さい頃からおかあちゃんの背中にくっついて畑仕事もしてたもんだからくせになってしまったよ。

いつ頃からだろうねぇ、重たい腰の痛みと一緒になったのは。

布団も週に二三回くらいしかあげなくなった。

しきっぱなしの布団のちょっと湿った匂いにもいつからか慣れてしまったからなんだろうね。

「さて」

子供たちはそれぞれに家庭を持って、お見合いをして一緒になった旦那様は三つ年上だったけれども、今年の五月で私は旦那様をついに追い抜いてしまった。

小学校に上がった頃までは孫たちがよく遊びに来ていたのに、前に会ったのはいつになるのかね?もう覚えてないねぇ。

「んー、んまい米だ」

炊き上がったお米、最初の一椀は旦那様に、そのしゃもじについたご飯をそのまま口にする時のなんと美味しいことか。

幸せだねぇ。

「あー、でも一人ってのは淋しいねぇ」

そんな独り言を旦那様に聞いてもらいながら、仏間へとご飯を持っていった。

仏様は香りをお食べになるそうだ。

今日のお米はよく炊けてますよ。

分量より少し水を少なくした、ちょっと硬めのごはん。

アナタの好みに合わせて変わったもの幾つあったかしらね。

私の好みに合わせて変えてくれたものとどちらが多かったのか、今では数えることもできなくて、淋しいねぇ。

「でも、生きてるってのはどうしてか、腰が痛くても、一人でも、目が悪くなっても、足が弱くなってもそれでもね。

あー、幸せなんだねぇ」



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