【短編集】時空郵便
俺はどれくらいそこにいたのだろう。
気付けば階段を降りていた。
足が震えていた。
何度も壁に肩をぶつけた。
エレベーターなんて使う気になれなかった。
一階。
非常口。
外に出る。
息ができない。
「はっ……はっ……」
ビルの裏へ回る。
いた。
青年が。
街灯の届かない場所に。
黒い塊になって横たわっていた。
俺は近づけなかった。
「……違う」
殺すつもりなんてなかった。
少なくとも助けようとしていたと思う。
「違う……」
俺は辺りを見回した。
誰か。
誰かいるはずだ。
分からない。
どうしてそう思うのか分からない。
でも。
あいつが死んだここには。
誰かが。
あの男が。
深緑色の制服を着た郵便配達人が。
いるはずだった。
「……どこだ?」
誰もいない。
「おい……」
街灯。
自動販売機。
閉ざされたビルの裏口。
青年の死体。
それだけ。
「なんで……」
俺は知っている。
理由なんて分からない。
いつ見たのかも。
何を話したのかも。
何一つ思い出せない。
それでも。
死体の傍らには。
確かに。
郵便配達人が――
一瞬。
走ってきた車のライトが俺の視界を白く塗り潰した。
そして。
遠くから女性の悲鳴が聞こえた。
時空郵便は今日も誰かの元へ。
したためるものはアナタ自身への救難か、疑問か、激励なのか。
それとも誰かへと向けられた感情なのか。
どれを選ぶかはアナタ次第。
「どーもー。毎度お騒がせ、安心便利をモットーに過去も未来もヨヨイのヨイ。時空郵便のものでーす」
『奔走の末路』......fin.