【短編集】時空郵便
その日の帰り。
野崎はスーパーへ寄った。
牛乳を一本。
ついでに娘の好きなプリンを三つ買った。
「ただいまー」
「パパー!」
玄関まで走ってきた娘を抱き上げる。
「プリン買ってきたぞ」
「やったぁ!」
「こら。先に手洗いなさい」
「はーい!」
妻がキッチンから顔を出す。
「牛乳は?」
「もちろん」
「珍しい」
「俺だって忘れない時くらいあるよ」
「いつも忘れるじゃない」
二人で笑った。
「ねえ」
「ん?」
「今日、何かあった?」
「どうして?」
「なんとなく」
野崎は少し考えた。
十年前から手紙が届いた。
本物の時空郵便に会った。
そんなことを言ったって信じてもらえるはずがない。
それに。
わざわざ言うほどのことでもないような気がした。
「別に」
「そう?」
「うん」
テレビの音。
夕飯の匂い。
娘の笑い声。
冷蔵庫を開ける妻。
買ってきた牛乳がその中へ収まる。
画面にしたなら。
きっと何の面白味もない映像だ。
事件もない。
奇跡もない。
どんでん返しもない。
誰も泣かない。
誰も死なない。
過去も未来も変わらない。
「なあ」
「なに?」
「今度の休み、三人で映画でも見に行くか?」
「いいね。何見る?」
「なんでもいいよ」
「パパ、プリン食べよー!」
「ああ、今行く」
野崎はリビングへ向かった。
ふと。
財布の中にしまった手紙を思い出した。
十年前の俺。
悪いけど。
お前が期待したほど、俺の人生は華々しいものにはならなかったよ。
映画監督でもなくなった。
有名にもならなかった。
夢だって途中で諦めた。
だけど。
「パパ早くー!」
「はいはい」
これでいい。
いや。
これがいい。
お前が心配するほど、悪いものでは無いのだから。
時空郵便は今日も誰かの元へ。
過去や未来に夢を託したとして。
そこに待っているのが、あなたの思い描いた物語とは限らない。
それでもページを綴り続けるのか、どっかで筆を置くのか。
それを選ぶのはアナタ次第。
「どーもー。毎度お騒がせ、安心便利をモットーに過去も未来もヨヨイのヨイ『時空郵便』の者でーす」
『ドラマチック』……fine.


