影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
「甲斐様?」

突然百合が声をかけてくる。

「この後何かご予定はありますか?」

「?」

これから家に戻り、教門(知識、教養、兵法など)の勉強でもしようかと思っていた。

隠密は武術に長けているだけでは駄目だ。

潜入した土地で怪しまれないようにする為にも、あらゆる土地の常識を学んでおかなければならない。

「いえっ、あのっ」

百合は何やら慌てたように手を振る。

「お、お時間よろしければ夕飯でもご一緒できればいいなと思ったのですが!母もたまには甲斐様をお誘いしなさいと申していましたので!」

何故そんなに焦るのだろう。

どことなく顔が赤いように見受けられる。

が…折角の百合と母上殿のご厚意だ。

「ならば勉強がひと段落してからお邪魔する」

俺がそう言うと。

「はいっ!」

彼女は笑顔で頷き、弾けるように走っていったのだった。

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