影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
初代が甲斐様の心理を揺さぶる。

五車の術の一つ、『哀車の術』。

相手の同情を誘う。

言ってみれば泣き落とし。

陳腐な術だが、肉親や恋人、親友相手には絶大な効果を発揮する。

もっとも。

「ぐふっ!?」

相手が血も涙もない、冷酷非道でなければの話だが。

甲斐様は迷う事なく間合いを詰め、初代の鳩尾を苦無で貫いた。

確実に仕留められるよう、刺したまま苦無を抉る。

「か…い…貴様…実の父を…実の父を殺めるかぁあぁっ!」

血を吐き散らしながら、初代が吠える。

「言った筈だ」

甲斐様の表情はなかった。

「影に生きる隠密の分際で権欲に現を抜かす貴様は、最早隠密でも父上でも非ず」





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