影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
天正九年(1581年)九月。

北畠信雄の軍もろとも丸山城を焼失させた『第一次天正伊賀の乱』より一年が過ぎていた。

北畠の首を取らず、見逃した事で信長の怒りを買うまでには至らないと考えていた甲斐様。

しかし尾張の第六天魔王は、私達が思っている以上に気性の激しい男だった。

北畠の敗戦は己の敗戦。

そう考えた織田信長の周囲で、軍が動いている。

そんな情報を物見斥候の忍が持ち帰ったのが、つい先日の話。

それを境に伊賀の里も俄かに慌ただしくなった。

信長は北畠のような愚将とは違う。

天下布武を唱え、事実戦国の覇権に限りなく近い男。

魔王と称されるのは伊達ではない。

刃向かう者は女子供であろうと容赦なく葬る鬼が如き男。

その信長が、もしかしたら伊賀の里に攻め込んでくるやもしれない。

里が警戒するのも無理はなかった。


< 48 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop