影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
「見事」

苦無で忍者刀を受け止めたまま、追っ手…甲斐様は頭巾を外す。

「一年前に比べると見違えるほどの上達振りだ。精進したな、百合」

「甲斐様のご指導の賜物です」

私も頭巾を外し、笑顔を浮かべた。

頭巾を外した拍子に、束ねた長い後ろ髪がこぼれる。

この髪がもっともっと短かった頃から、甲斐様にはずっと稽古をつけて頂いているのだ。

上達するのが何よりの恩返しと言えるだろう。

「これで有事の際には、私も戦に参加させていただけますよね?」

「……」

私の言葉に、甲斐様の表情が曇る。

「百合…次の戦はこの間の北畠の軍相手とは訳が違う」

「存じております」

私とて伊賀の隠密、里を取り巻く状況はわかっているつもりだった。

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