影を往く者、闇に逝く者-戦国隠密伝-
伊賀忍者は金銭による契約以上の関わりを雇い主との間に持たない。

時代、派閥、勢力に関係なく、また契約者が権力者であろうがそうでなかろうが、私達は契約によって動き、それ以上の感情を差し挟まない。

伊賀郷士はしばしば雇い主が敵同士の場合でも、依頼があれば双方に忍を派遣する実例をも持つ。

そのため他の郷の忍者よりも一層、例え仲間であろうと即座に処断できるような厳酷な精神も求められた。

『抜忍成敗』はその極みともいうべき物で、裏切りや脱走はいかなる事があっても認めないという物である。

また伊賀流の訓練法は独特さをもって知られており、例えば顔の半分を紙で覆い、紙を顔から落とす事なく一里以上を走りぬく等、幼少の頃から厳しい訓練のもと優れた忍を育てる事を伝統としてきた。

他の隠密諸派と比較しても厳しく、過酷な掟と修練を課せられる伊賀流。

それでも私はこの伊賀の里を脱しようとは思わなかったし、この伊賀の里が、仲間が、人々が好きだった。

いつか天下に名を轟かせる忍に…。

それが私の夢でもあった。

< 5 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop